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東京地方裁判所 昭和61年(特わ)2843号 判決 1987年3月18日

本店所在地

東京都北区志茂一丁目六番一一号

株式会社大都製作所

(右代表者取締役 木原一雄こと 李一雄)

本店所在地

東京都荒川区西日暮里六丁目五一番八号

大都販売株式会社

(右代表者取締役 木原一雄こと 李一雄)

国籍

朝鮮

住居

東京都北区志茂一丁目三一番六号

会社役員

木原一雄こと李一雄

一九四一年五月二一日生

右の者らに対する各法人税法違反被告事件につき、当裁判所は、検察官江川功出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

一  被告人株式会社大都製作所を罰金四八〇〇万円に、被告人大都販売株式会社を罰金一二〇〇万円に、被告人李一雄を懲役一年六月にそれぞれ処する。

二  被告人李一雄に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人株式会社大都製作所(以下「被告会社大都製作所」という。)は、東京都北区志茂一丁目六番一一号に本店を置き、自動販売機、電動還元機等の製造等を目的とする資本金六〇〇〇万円の株式会社、被告人大都販売株式会社(以下「被告会社大都販売」という。)は、東京都荒川区西日暮里六丁目五一番八号に本店を置き、遊技場の設計工事施行、遊技場用備品の販売等を目的とする資本金三二〇〇万円の株式会社であり、被告人木原一雄こと李一雄(以下「被告人」という。)は、右被告会社二社の代表取締役としてこれら被告会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、

第一  被告会社大都製作所の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の販売手数料及び広告宣伝費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

一  昭和五七年四月一日から同五八年三月三一日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が一五億七八九〇万一七〇一円あった(別紙(一)修正損益計算書参照)のにかかわらず、確定申告書の提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同五八年六月三〇日、東京都北区王子三丁目二二番一五号所在の所轄王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一三億九二八一万二二六円でこれに対する法人税額が五億七四八五万七二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六二年押第一一九号の6)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同会社の右事業年度における正規の法人税額六億五三〇一万五二〇〇円と右申告税額との差額七八一五万八〇〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ

二  同五八年四月一日から同五九年三月三一日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が一四億九四〇万一二三七円あった(別紙(二)修正損益計算書参照)のにかかわらず、確定申告書の提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同五九年六月三〇日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一二億九三〇一万六八六二円でこれに対する法人税額が五億三一〇八万八九〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の8)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五億七九九七万五〇〇円と右申告税額との差額四八八八万一六〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ

三  同五九年四月一日から同六〇年三月三一日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が四億三二四二万四一三九円あった(別紙(三)脱税額計算書参照)のにかかわらず、確定申告書の提出期限の延長処分による申告書提出期限内である同六〇年七月一日、前記王子税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が三億八四〇〇万一八七五円でこれに対する法人税額が一億五五三八万四四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(押同押号の9)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一億七六三五万七〇〇円と右申告税額との差額二〇九六万六三〇〇円(別紙(四)脱税額計算書参照)を免れ

第二  被告会社大都販売の業務に関し、法人税を免れようと企て、架空の販売手数料及び広告宣伝費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五八年九月一日から同五九年八月三一日までの事業年度における同被告会社の実際所得金額が一一億八九九八万九一二一円あった(別紙(五)修正損益計算書参照)のにかかわらず、確定申告書の提出期限の延長処分による申告書の提出期限内である同五九年一一月三〇日、東京都荒川区西日暮里六丁目七番二号所在の所轄荒川税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一〇億八九六六万七八九〇円でこれに対する法人税額が四億七〇三五万八〇〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(前同押号の14)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額五億一三七九万七三〇〇円と右申告税額との差額四三四三万九三〇〇円(別紙(六)脱税額計算書参照)を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する昭和六一年一〇月二一日付、同年一一月二一日付、同月二六日付及び同年一〇月二七日付各供述調書

一  被告人の収税官吏に対する質問てん末書

一  李末玉、遠藤久一及び金秉の検察官に対する各供述調書

一  朴魯浩、熊谷年晃(二通)及び木原美代子の収税官吏に対する各質問てん末書

一  検事作成の捜査報告書

判示第一の各事実につき

一  被告人の検察官に対する昭和六一年一一月二七日付供述調書

一  検察事務官作成の昭和六一年一二月一七日付捜査報告書(株式会社大都製作所の登記簿謄本等)

一  収税官吏作成の次の各調査書(いずれも株式会社大都製作所に関するもの)

1  販売手数料調査書

2  広告宣伝費調査書

3  受取利息調査書

4  債券償還益調査書

5  事業税認定損調査書

6  未払金認容調査書

7  債券調査書

8  債券償還益調査書における大都製作所帰属(持分)債券高調査書

9  事業税認定損調査書(補正分)

一  押収してある法人税確定申告書三袋(昭和六二年押第一一九号の6、8、9)及び申告期間の延長の特例の申請書一袋(同押号の10)(以上いずれも株式会社大都製作所に関するもの)

判示第二の各事実につき

一  検察事務官作成の昭和六一年一二月一七日付捜査報告書(大都販売株式会社の登記簿謄本等)

一  収税官吏作成の次の各調査書(いずれも大都販売株式会社に関するもの)

1  販売手数料調査書

2  広告宣伝費調査書

3  債券償還益調査書

4  事業税認定損調査書

5  事業税認定損調査書(補正分)

一  押収してある法人税確定申告書一袋(昭和六二年押第一一九号の14)及び申告期間の延長の特例の申請書一袋(同押号の17)(以上いずれも大都販売株式会社に関するもの)

(法令の適用)

一  罰条

(被告会社大都製作所、同大都販売)法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

(被告人)法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

(被告人)懲役刑を選択

三  併合罪の処理

(被告会社大都製作所)刑法四五条前段、四八条二項

(被告人)刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の一の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

(被告人)刑法二五条一項

(量刑の事情)

本件は、被告会社二社の代表取締役をしている被告人が、いずれも架空の販売手数料及び広告宣伝費を計上するなどの方法により所得を秘匿した上、被告会社大都製作所の昭和五八年三月期ないし同六〇年三月期の三事業年度分の法人税一億四八〇〇万円余、被告会社大都販売の昭和五九年八月期事業年度分の法人税四三〇〇万円余を免れたというものであるが、ほ脱税額は合計で一億九一〇〇万円余と高額であり、ほ脱率も右各事業年度分について約八ないし一一パーセントであって、被告会社らの事業内容、事業規模などを考慮すると決して低いとはいえない。被告会社大都製作所は主にパチンコ店における補給装置、玉貸機、紙幣両替機などを製造し、被告会社大都販売(昭和五六年九月設立)を介して販売しているものであるが、被告会社大都製作所では、被告人が父在東の後を継いで代表取締役に就任した昭和五〇年九月以前から架空広告宣伝費を計上するなどの方法で所得を圧縮していたものであるところ、被告人は、同五五年一〇月ころ母末玉の仲介で在日本朝鮮人商工連合会財務部長らと相談の上、同連合会が販売に協力する代わりに被告会社大都製作所において、同連合会に販売手数料を支払うこと、販売手数料の金額は表向き毎月一〇〇〇万円とするが、実際に支払うのは一か月分程度で、残りは同被告会社の裏金にまわすことなどを取り決め、同被告会社の昭和五六年三月期から右の方法による大幅な所得の圧縮を行うようになり、その後朝鮮商工新聞社、金剛山歌劇団など各種団体との間においても同様の方法をとり、判示の各ほ脱に至ったものである。したがって、本件は、被告会社らの後記修正申告の内容などからも、長期間にわたって継続的に行われていた脱税の一部にすぎないことが明らかであり、手口も巧妙かつ悪質である。また動機についても将来の資金繰りに備えたいというもので、事実、ほ脱所得のほとんどすべては割引商工債券の購入に充てられて留保されているが、斟酌すべき事情があるとは言えない。したがって右の事情を考慮すれば、被告人の刑事責任は重大であるが、被告会社らにおいて判示のほ脱対象事業年度分を含め合計九事業年度分(被告会社大都製作所については昭和五六年三月期ないし同六〇年三月期、被告会社大都販売については昭和五七年八月期ないし同六〇年八月期)について修正申告し、右留保されていた資金をもって本税、重加算税、延滞税、地方税などの納付をすべて終えていること、被告人は、査察の当初はともかく、それ以後は事実を認めて反省の態度を示していること、本件においては、母末玉の果たした役割も大きいと認められるところ、現在では同女は健康状態などの関係で被告会社らの経理に関与することはなくなっていること、被告人も被告会社らにおける経理体制を改めて今後の適正な納税を誓っていること、被告人には前科前歴がないことなどの事情もあるので、これらを総合勘案し、被告人については刑の執行を猶予することとした次第である。

(求刑 被告会社大都製作所につき罰金五〇〇〇万円、同大都販売につき罰金一三〇〇万円、被告人につき懲役一年六月)

よって、主文のとおり判決する。

(弁護人 神宮壽雄)

(裁判官 石山容示)

別紙(一)

修正損益計算書

株式会社 大都製作所

自 昭和58年4月1日

至 昭和59年3月31日

<省略>

別紙(二)

修正損益計算書

株式会社 大都製作所

自 昭和58年4月1日

至 昭和59年3月31日

<省略>

別紙(三)

修正損益計算書

株式会社 大都製作所

自 昭和59年4月1日

至 昭和60年3月31日

<省略>

別紙(四)

脱税額計算書

会社名 株式会社大都製作所

No.1

(1) 自 昭和57年4月1日

至 昭和58年3月31日

<省略>

(2) 自 昭和58年4月1日

至 昭和59年3月31日

<省略>

脱税額計算書

No.2

(3) 自 昭和59年4月1日

至 昭和60年3月30日

<省略>

別紙(五)

修正損益計算書

株式会社 大都販売株式会社

自 昭和58年9月1日

至 昭和59年8月31日

<省略>

別紙(六)

脱税額計算書

会社名 大都販売株式会社

自 昭和58年9月1日

至 昭和59年8月31日

<省略>

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